在来浴室構造下での非破壊調査(トレーサーガス・音聴・圧力観測)と検知限界の整理
🟨 要 点:井戸ポンプ系で見られる圧力減衰の特徴と調査概要
本稿は、井戸ポンプを用いる戸建住宅で観測された“水も空気も外へ出ないのに圧力だけが低下する”事象を、現場データに基づき技術報告として整理したものである。
- トレーサーガス・音聴・路面音聴・目視・触手の全手法で反応なし
- 圧力計観測では静止状態でも緩やかな圧力減衰を継続記録
- 在来浴室(コンクリート基礎・防水モルタル・タイル)構造が検知を阻害
- 浴槽水栓ハンドル部に軽微な滲み→圧損要因の一要素として記録(断定せず)
- 本現象は井戸ポンプ等の“閉じた加圧系”で観測されやすく、水道直結では成立しにくい
🟨 はじめに
井戸ポンプを使用する給水系統では、通常、水漏れや湿潤痕、水道メーターの回転など、外観や計器の挙動から異常を把握することができます。
しかし一部の現場では、水も空気も外部へ漏れ出さないにもかかわらず、圧力のみが緩やかに低下し、ポンプが定期的に自動起動を繰り返すケースが存在します。
本記事で紹介する茨城県神栖市の事例は、まさにそのような「外部漏出を伴わない圧力減衰」を確認した井戸ポンプ系の技術報告です。
現場では、トレーサーガス調査・音聴調査・路面音聴調査など複数の非破壊手法を用いましたが、いずれの方法でも反応は得られませんでした。
それにもかかわらず、圧力計測では明確な減衰傾向が確認され、内部的な圧損が継続して発生していることが判明しました。
この現象の要因を解明するため、床下侵入・埋設配管の露出確認・経路追跡調査を段階的に実施しています。
本報告では、この現場を通じて得られた観測データと分析結果をもとに、非破壊調査における検知困難条件と、構造的要因が調査精度に与える影響について技術的整理を行います。
🟨 目 次
はじめに
- 1章|現場の概要と初期判断
- 2章|調査の実施と観測過程
- 3章|在来浴室構造と検知困難の要因
- 4章|技術的評価と考察
- 5章|非破壊調査における特定限界の整理
- 6章|構造的制約下での調査計画と判断指針
- 7章|非破壊調査の意義と技術的信頼性
- 8章|非破壊調査を効果的に行うための実践的考え方
🟩 1章|現場の概要と初期判断
調査対象は茨城県神栖市の戸建住宅である。
依頼内容は、井戸ポンプが無操作状態にもかかわらず一定間隔で自動起動を繰り返すというものであった。本件は、配管系統に起因する圧力低下の可能性を前提に、初動調査として実施した。
初動調査では、施主立会いのもと調査の流れ、注意点、費用説明を行い、屋内外の器具および配管の確認を小型音聴器を用いて進めた。屋内では露出配管部に音聴器を接触させ、伝搬音から漏水の有無を確認した。トイレ、浴室、洗濯機水栓、台所水栓など、全ての水まわり器具を対象に点検した結果、1階トイレにおいてボールタップ部の止水不良を確認した。2階トイレは未修理との申告があり、同様の不具合を想定した。
止水不良は井戸ポンプの自動起動に影響を与える可能性があるが、同時に埋設配管からの漏水を除外する根拠にはならないため、屋外調査へ移行した。屋外では、2箇所の外水栓およびタンク式給湯器まわりを小型音聴器で確認したが、漏水音は検音されなかった。
初動段階では、宅内設備不良が圧力低下の一因であると推定しつつも、埋設配管を含む全体調査を行う必要があると判断した。そのため、非破壊手法を中心とした本調査(トレーサーガス調査・音聴調査)を実施する方針とした。
🟩 2章|調査の実施と観測過程
本調査では、トレーサーガス調査および音聴調査を併用し、埋設管を中心に長時間の非破壊調査を実施した。
トレーサーガス注入後は、地上での浮上反応を確認するために路面音聴器を用い、屋外全周を対象に複数回の周回調査を行った。併用によってガス検知と漏水音の両方を捉えるハイブリッド調査を行ったが、いずれの手法でも反応は得られなかった。
この時点で、埋設配管からの漏水の可能性は極めて低いと判断した。
そして、初動で確認されたトイレの止水不良が一次的な圧力損失要因であると想定し、修理によって現象が収束する見込みを立てた。
二日目の調査では、1階および2階トイレのボールタップを交換し、井戸ポンプの起動間隔を定量的に把握するため圧力計を設置して観測を行った。修理後、ポンプの自動起動間隔は延長し、圧力低下速度も初日と比較して緩やかであることを確認した。
この結果を踏まえ、施主に一定期間の経過観察を依頼し、圧力挙動を数日間観測していただくこととした。
後日、施主から「起動間隔は延びたが、完全な停止には至っていない」との報告を受け、三日目の再調査を実施することとなった。
この時点で、宅内設備不良による影響は軽減されたものの、圧力減衰現象が継続していることを確認し、構造的要因を含めた検証へと調査方針を転換した。
🟩 3章|在来浴室構造と検知困難の要因
本件でトレーサーガスおよび音聴調査のいずれも反応が得られなかった主な理由は、在来浴室特有の構造条件にある。
在来浴室では、給水管および給湯管がコンクリート躯体内に埋設され、その上に防水モルタル層とタイル仕上げが施される構造となっている。このため、管内で微細な漏れが生じた場合でも、ガスや音波が上方向へ伝達する経路が著しく制限される。結果として、床上や建物外周部に設置した検知器では反応が現れにくい。
また、浴室の床下はコンクリート基礎で四方が囲まれており、内部への立ち入りができない構造である。給水・給湯管は基礎部を貫通して隣接する台所や洗面へ延びており、管の一部がコンクリート内部に完全に埋設されている。
このため、漏れが発生してもガスや音が外部に伝わる経路が存在せず、非破壊調査では「無音・無反応」となる条件が成立する。
さらに、浴槽水栓開閉ハンドルのスピンドル部には軽微な滲み漏れが確認された。この部位は部品供給が終了しており修理が困難であるが、圧力損失の要因として考えられる箇所である。
ただし、この不具合が直接的な主因であると断定できるものではなく、一要素として記録している。
🟩 4章|技術的評価と考察
本件の挙動は、外部への水や気体の排出を伴わずに圧力のみが緩やかに低下する現象として整理される。
トレーサーガス調査および音聴調査はいずれも無反応であり、露出配管の目視・触手でも漏出徴候は確認されなかった。井戸ポンプは一定間隔で自動起動を再現し、圧力計観測では静止状態でも緩やかな圧力減衰が継続的に確認された。
この観測事実は、在来浴室の構造条件と整合する。すなわち、配管の一部がコンクリート躯体内に埋設され、防水モルタル層と仕上げ層によって上方への伝達経路が限定されるため、外部でのガス検知や音圧検出が成立しにくい。床下への立ち入り不可という点も相まって、非破壊手法での反応取得は困難である。
設備側の要素として、浴槽水栓の開閉ハンドル(スピンドル部)に軽微な滲みが確認されており、圧力低下に寄与する可能性は否定できない。ただし、当該部は部品供給終了により修理検証ができておらず、主因と断定できる根拠は現時点で得られていない。
一次要因・二次要因の寄与割合については、非破壊範囲内の調査では判定不能である。
初動で埋設配管由来の漏水可能性は低いと判断し、器具側の止水不良を是正した結果、ポンプの起動間隔は延長した。しかし、完全停止には至らず、圧力減衰の再現性は維持された。
以上より、本件は外部排出を捉えられない条件下で生じる圧損挙動として記録し、非破壊調査の範囲内では特定に至らないことを確認した。
🟩 5章|非破壊調査における特定限界の整理
今回の調査では、トレーサーガス・音聴・目視・触手のいずれの手法でも反応が得られなかった。
この結果は、調査精度の不足を示すものではなく、非破壊調査の適用限界を示す重要な事例である。とくに在来浴室のように、構造的に外部との伝達経路が遮断されている場合、理論上も反応取得が難しい環境条件が成立する。
非破壊調査において重要なのは、反応が得られない場合に「なぜ得られないのか」を構造的・技術的に説明できることである。
今回のように、コンクリート躯体内に埋設された給水・給湯管が防水モルタル層に覆われ、さらに床下への進入ができない条件では、ガスの浮上・音の伝達ともに成立しない。
これは特定不能ではなく、非破壊調査の限界条件を確認した結果である。
🟩 6章|構造的制約下での調査計画と判断指針
在来浴室のように、コンクリート基礎と防水モルタル層によって外気との経路が遮断される構造では、トレーサーガスや音聴調査の反応を得にくい。
こうした条件下で確実な調査を行うためには、構造条件に応じた手順設計と判断基準の設定が欠かせない。
以下に、構造的制約下での実践的な調査設計のポイントを示す。
- 防水層によってガスが浮上しにくい前提で計画を立てる
- 床下進入が不可能な場合は、圧力挙動の観測を優先し、反応有無を構造的に評価する
- 器具側の止水不良や軽微な滲みを排除した状態で再調査を行い、圧力変動の再現性を確認する
- 必要に応じてトレーサーガスと音聴調査を併用し、時間経過を追って検証する
反応がない場合であっても、その理由を構造条件・圧力挙動・設備要因の三点から説明できれば、調査としての信頼性は確保される。構造的に検知が難しい現場ほど、「反応が出ない理由を説明できること」が技術力の証明となる。
🟩 7章|非破壊調査の意義と技術的信頼性
今回の事例は、非破壊調査における検知限界を把握する上で極めて示唆に富む結果となった。
トレーサーガス調査・音聴調査・圧力観測・目視確認のいずれも明確な反応を示さなかったことは、単なる未特定事例ではなく、非破壊手法の成立条件と制約を実測的に確認できたという意味を持つ。
非破壊調査は、反応が得られなかった場合でも調査の失敗を意味しない。
むしろ、反応が生じない理由を構造的・環境的に説明し、再現性をもって技術的に整理することが、調査信頼性を支える要素となる。
この現場では、浴室構造・配管配置・防水層構成といった複数の要因が重なり、理論上も反応が出にくい条件が成立していた。それを実地で確認できた点は、調査技術の裏づけとして大きな意味を持つ。
🟩 8章|非破壊調査を効果的に行うための実践的考え方
非破壊調査を現場で最大限に活かすためには、機器性能だけに依存せず、構造条件・環境条件・圧力挙動の三要素を総合的に評価する視点が不可欠である。
とくに、在来浴室のように構造的制約が強い現場では、反応の有無よりも「なぜその反応が出ないのか」を判断する力が技術の核心となる。
まず、調査目的を明確化することが第一である。
漏水を見つけることを目的とするのではなく、現場の構造条件下で非破壊的にどこまで特定できるかを検証し、今後の調査判断に繋げる。反応が出ない場合も、それは重要な観測結果であり、再現性のある技術記録となる。
次に、手法の組み合わせと段階的な検証が重要となる。
トレーサーガス調査・音聴調査・圧力観測などの各手法は単独では限界を持つが、複数の手法を組み合わせることで、構造的に遮断された現場でも相関的に原因を推定できる可能性が高まる。特に、ガス・音・圧力という異なる物理現象を並行して観測することは、非破壊調査の信頼性を大きく高める要素である。
最後に、判断と報告の透明性が技術信頼性を支える。
特定に至らなかった場合でも、その理由を構造条件や調査経緯とともに明確に説明できれば、調査としての価値は失われない。結果よりも過程の検証を丁寧に残すことが、非破壊調査の本質であり、次の調査精度を高める礎となる。
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